マイコン選定とファーム構成の考え方 性能と開発効率の両立設計判断
製品の知能化・ネットワーク化が進むなかで、
組込み機器の中核となるマイコン(マイクロコントローラ)の選定は
開発成否を大きく左右する工程です。
複合機やスマートキー、医療トレーニング機器、業務用洗濯脱水機など、
多様な製品群を支えるシステムでは処理性能や消費電力、コスト
さらに開発効率をどうバランスさせるかが鍵となります。
マイコン選定の基本方針:仕様を因数分解する
まず マイコンを選定する際には「求める機能要件を細分化する」ことが出発点です。
単に“CPU性能が高いもの”を選ぶのではなく
以下の観点で製品要求を整理すると、適正なマイコンが明確になります。
1.処理性能要件(CPUコア/クロック周波数)
処理周期や制御分解能、リアルタイム性に直結
過剰な性能はコストや消費電力増につながるため、実際のタスク負荷を見積もることが大切
2.周辺機能要件(通信・AD/DA・タイマ構成)
UART、I²C、SPI、CAN、USB、Ethernet など、外部インターフェースの数と機能を整理
複数通信が並列動作する装置ではDMA対応の有無も重要
3.メモリ容量要件(RAM/ROM/EEPROM)
ファーム規模や拡張予定に合わせて余裕を確保
OSや通信スタックの導入がある場合は特に注意が必要
4.動作環境要件(温度範囲/電源電圧/ノイズ耐性)
産業機器では環境耐性が設計選定条件
AEC-Q100やExtended温度対応品の採用も有効
これらを多角的に比較し システム要求とコストのバランスを考えることで、
「オーバースペックでもなく、将来拡張性も備えた選定」が可能になります。

アーキテクチャ選定と開発基盤整備
マイコンのアーキテクチャ(8bit/16bit/32bit/MPU)は、
要求性能と開発スケールによって使い分けます。
8bitや16bitマイコンは、比較的シンプルな制御(センサー読取りやモータ制御など)に向き、
低消費電力での運用が可能です。
一方 32bitマイコンやMPUは、複雑な制御・通信・UI表示を統合する高機能装置向けで、
RTOSを導入したマルチタスク制御にも適しています。
開発効率を上げるためには、
マイコン選定の段階で開発環境・ツールチェーンの整備状況も考慮すべきです。
・評価ボードやサンプルコードが充実しているか
・デバッグ環境(JTAG/SWD)とエミュレーションツールの対応状況
・コンパイラやIDEがチーム内で共通運用可能か
これらを初期に確認することで、開発立ち上がりのスピードと将来的な保守効率が格段に向上します。
ファームウェア構成の最適化:層構造設計の重要性
マイコンの性能を引き出すには
ハードウェア依存部とアプリケーション部を整理した階層的なファーム構成が有効です。
代表的な構成は次の通りです。
1.ハードウェア抽象層(HAL)
各ペリフェラルとの直接的な制御を担当し
デバイス依存性を局所化
マイコン変更時の移植性を高める
2.ミドルウェア層
通信スタック、データ変換
モータ制御ロジックなどを共通化
再利用性を向上
3.アプリケーション層
ユーザー要求仕様に基づく機能群を実装
上位のUIや通信制御と連携

このように分割しておくことで 改良や派生機種対応時に変更箇所を最小限に抑えられ、
開発スピードと品質を同時に高めることができます。
おわりに
マイコン開発における最適化とは、単なる高性能化ではなく
「必要な処理を安定して、無駄なく行う設計思想」を意味します。
処理能力・コスト・電力・開発工数を総合的に見て判断することが、量産化を成功に導く第一歩です。
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